英雄も悪役もいらない、欲しいのは安全の仕組み

滋賀県高島市住職系行政書士吉武学です。
遺言・相続・葬儀・埋葬のお悩みに「三つのそうだん」でお応えします。
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処女航海で氷山にぶつかって沈没した豪華客船タイタニック号については、映画化もされましたが、なぜ氷山にぶつかったのか、氷山を見つけられなかったのか、など沈没にまつわる噂が色々とあります。

先日は、海底にあるタイタニック号の残骸を見に行く潜水艇のツアーで事故があり5人が亡くなり、これまた様々な憶測を呼んでいます。

毎日新聞 202年9月3日号
豪華客船タイタニック事故(その1) 深い海に沈んだ謎
毎日新聞 202年9月3日号
豪華客船タイタニック事故(その2止) 沈没の謎 船の巨大化、悲劇「予言」

氷山とぶつかった謎として、事故前にタイタニック号は近くの船から氷山が近いとの警告を受信していたが、通信士が船会社と違う所属だったためにうまく伝達されなかったとか、双眼鏡を入れたロッカーの鍵を持った船員が返却しないまま出港してしまったため双眼鏡が使えなかった、などの説が挙げられています。
また、沈没する14年前にアメリカの小説で「タイタン号」という船が全く同じように氷山にぶつかって沈没する様子が描かれていたり、姉妹船のオリンピック号とすり替え説が出たりもしています。

船長や船員の行動について、当時の文壇の著名人も様々に論争しています。
ノーベル文学賞も受賞したバーナード・ショーは、乗客を救命ボートに乗せ船に残ったスミス船長が賞賛される記事に反論し、船の操船を謝って多くの犠牲を出した過失責任を問うています。
一方で、シャーロック・ホームズを生み出したコナン・ドイルは、女性や子どもを優先して避難させた英雄だと賞賛しています。
また、映画でも描かれた、氷山に衝突した後も楽団員が演奏を続けたことについて、ショーは乗客を油断させたと指摘し、ドイルは動揺を沈め混乱を避けた行為として賞賛しています。

船長という組織のトップとして、人数分の救命ボートや救命具を揃えておく等の危機管理が甘かったとか、船が大型化して小回りが利かないにもかかわらずスピードを出しすぎていたとか、議論の余地はあると思います。
楽団員も船員では無いもかかわらず、弾き続ければ自分の命が無いことも分かっててやっていたはずですが、そこまでやるべきなのか、という問題もあるでしょう。

災害や事故が起きると、人は皆、ヒーローや悪役を作りたがります。
特に自分の命の危険があることが分かっているにもかかわらず、誰かの命を救うために行動した人が極端に英雄視されます。
しかし本当にみんなが目を向けるべきなのは、誰かの命が危険にさらされるリスクがそのままにされていたことでしょう。

誰一人、命を危険にさらすこと無く、安全に行動できるようにいかに「仕組み」を作るかです。
誰かの「勇気」とか「頑張り」とか「能力」とかそういう属人的なものに頼らない、自動的に安全が図られる「仕組み」が大事です。

船の安全は現代はタイタニック号の頃に比べれば遙かに高まっているはずです。
しかし、前述の潜水艇のツアー事故も有りますし、大型客船の事故による大量死は検索すれば近年でも出てきます。
船に限らず、東日本大震災の津波対策や原子力発電所も同様のことが言えるでしょう。

仕組みを作っても「想定外」が起きるのが現実です。
先日、9月1日は防災の日でしたが、あらためて現在の対策を上回るものが来るかもしれない、という危機感を持って日々を過ごさねば、と感じました。