不安を解消しても問題は解決しない

滋賀県高島市住職系行政書士吉武学です。
遺言・相続・葬儀・埋葬のお悩みに「三つのそうだん」でお応えします。
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以前のセミナー受講者から相談の依頼がありお話をしました。
私のファイナンシャルプランナーの面から、老後資金と家族がやろうとしているリフォームについてのご相談でした。

国家公務員を退職された70代の方で、現在は年金と貯金で生活をされていました。
家計全体は相談に来られたご主人が管理されていましたが、あくまで概算の管理で、日々の生活費は月々に奥さんに渡しているお金で奥さんがやり繰りされていました。
また、お子さんの中に身体に障害がある方がおられ、その方の生活費も見ておられました。
そのため、将来的に老後資金が尽きてしまうのではないか、と不安が続いて病院に通い始めている状態でした。

また、お住まいの築年数がだいぶ経過し、お子さんの障害のことも考えて、奥さんとお子さんがお風呂のリフォームを提案されていましたが、高額になるため相談者は二の足を踏んでおられました。
またリフォームに対して前向きな回答ができないため、家族からの不満の声も聞かれているようでした。

ご相談を表面的に捉えるならば、老後資金が将来にわたって足りるかどうか、リフォーム資金が捻出できるかどうかがハッキリすれば解決できるように思います。
ファイナンシャルプランナーとしてライフプラン表を作成することで具体的な資料を提示して、足りるか足りないのか分析することはできます。
ただその分析結果を相談者が家族に持って帰って話をされても理解はしても納得はされないでしょう。

相談者の方には二つの段階が必要であることをお伝えしました。

一段階目は相談者の「不安」解消です。

「不安」とは将来の不確実性に対して起きるネガティブな感情です。
したがって、相談者ご自身で現在の資産合計と将来にわたっての収入・支出を計算することで、容易に将来の見通しが確実になっていくので、不確実性に対する感情は減っていきます。

老後資金が足りないと分かれば、新たな不安が起きるのではないか、と思われる方がいると思いますが、足りないと分かっているので「対策」することができます。
対策としては、収入を増やすために家族でバイトに出るとか、支出を減らすために固定費の見直しを行うとか、長期に渡って置いておける余剰資金があるなら運用するなどの方法が採れます。

二段階目は「新たな家族関係の構築」です。

リフォームへ二の足を踏む相談者に対する家族の反応を聞くと、コミュニケーションを取るのでなく、お互いに相手を打ち負かすことで自分の意見を通そうとする関係になっているように見受けられました。
そのため、一段階目の計算結果を奥さんやお子さんが見られても、相談者に都合の良いように計算して「説得」にこられていると思われる可能性が高い、と感じました。
対応策として、一段階目の資産の計算などの際に、奥さんと一緒に作業してください、と提案しました
作業に誘うのでなく、手伝って欲しいとお願いして、数字を作る過程を口に出しながら共有してください、とお伝えしました。
また、奥さんは毎月渡されている生活費を簡易な家計簿でまとめられている、と言われたので、それを見ながら奥さんが月々細かな作業をされていることへの感謝や受け止める言葉を伝えてください、と言いました。

作業を通じて、情報や感情を共有し合う、結果を相手に見せるのでなく結果を作る過程を相手と共に過ごす、といったことから、気持ちに変化が生まれ、新たな家族関係が生まれることを期待したのです。

こちらの提案を聞いて、相談者は「まずは妻と作業を一緒にしてみます。断られても何度も誘ってみます」と言って帰られました。

老後資金が不安だと言ってこられましたが、実際の問題点は家族と気持ちや問題が共有できていないことだと思います。
今回は、相談者の方の言葉の裏にある、本当の気持ち、本当の問題点に少しだけ気づけた気がしました。