行政は何もしない勇気を持つべきだ

滋賀県高島市の住職系行政書士の吉武学です。
遺言・相続・葬儀・埋葬のお悩みに「三つのそうだん」でお応えします。
詳しくはこちらから。

国勢調査を見ると、滋賀県は全国的にも珍しく人口増加が続いています。
ただそれは京阪神地方にアクセスが便利な地域での人口増加が大きいためであり、むしろ北陸方向に近い市町は人口が大きく減少しています。

私の住む高島市は人口が5万人弱の市ですが、前回の国勢調査から5年間で3646人が減少し、減少率は7%を越えています。
毎年700人以上が減少している計算ですから、遠からず街自体が消滅の危機にあると言えるでしょう。

高島市の取組を見ると、さすがに人口増加とまでは打ち出さず、緩やかな人口減少を目指した取組をしています。
大人からは「若者が働く場所がない」ということがよく言われますが、その時に大人が想定しているのは大規模な工場。
そこで働くということはライン工などの職種が多いわけで、それが果たして中学生や高校生が考える働きたい場所かといえば疑問です。

街中を走るとあちこちに田園が広がりますが、休耕田が増えていることが年々分かるので、農業者の減少がうかがえます。
私の周りで人も雇いながら大規模に農業をされている方もいますが、いずれも70歳を越える高齢者。
後継してくれる人もいないということなので、この人達が農業を辞めれば一気に休耕田も増えることになります。

琵琶湖近くの高低差がないところで大規模に田園が広がるところもありますが、多くは山の麓で高低差があるところの田畑です。
国の法律用語でいえば中山間地域と呼ばれ、圃場整備も難しく、田んぼ一面あたりの面積も大きく取れないため、労働集約率の悪い田んぼが多いことになります。
より高低差があるところは棚田と言われ、映画の撮影に使われたり、風景として評価されたりしていますが、農作業的には平野部より負担が大きくなるので、耕作者の減少が大きいそうです。

新聞でこうした中山間集落で農業をされた方を取材した記事がありました。

・毎日新聞 井上英介の喫水線「中山間集落は滅ぶべきか」 2023/09/09

取材を受けた島根県奥出雲町の大塚一貴さんは、中山間集落について、
「維持も展開も人がいないので物理的に不可能だと思う」
「人が年齢的な限界でゆるゆると死に絶え、必然的にコンパクトシティー化が進むまで待つ必要がある」
「大事なのは行政が何もしないこと。移住政策も中核と決めた地域以外はもってのほか。推進してはならないどころか、そこに人が来ない方策を行い、正しく地域の人を絶望させる政策が大事だと思う」
と極端にも聞こえることを話されています。

大束さん自身は生まれも育ちも東京でIターンで島根県に移住し農業をされています。
農業そのものはご本人の才覚などもあり十分に回っていますが、住む集落は後継者の以内高齢者ばかりで、いずれは他の集落や街に受け皿になってもらう必要があるといっています。
そのために「集落を守るための国の各種補助金を一度全廃したらいい」「地域おこし協力隊は絶望しかけている地域に人を送り込むことで、意味もなく希望を与えかねません」と言われます。

一貫とした意見となっているのは「行政は何もしない勇気を持つべきだ」ということです。
これは、もう何をしても無駄だ、と言っているのではなく、地元の人に覚悟を決めてもらう必要があるということをこうした言葉で言われているのです。

確かに、私の地域にも中山間地域の農業に関する補助金が出ており、それに対して集落の人は「もっと補助金が出ないのか」と依存的な発言をしますが、一時的な延命にしかならないだろうな、と感じます。
根本的な改善には繋がらないのであれば、取材を受けた大束さんの言うように補助金の全廃をすべきなのかもしれません。
記事では大束さんは各省庁の政策の方向が同じ方向を向いていないことを問題視されていますが、実際は政治家からの意見によるところが大きいのでしょう。

補助金を全廃すれば、再び立ち上げる地域も出るでしょうが、本当に滅んでしまう地域も出るでしょう。
無くなった地域の復活は出来ない中で延命させてでも何か方策を考えるべきなのか、それともいずれは無くなる地域と割り切り、復活できる地域に援助を集中すべきなのか。

どちらかしか選べない中、将来のビジョンを示すリーダーに託すか託さないかを決断しなければいけません。
ただ、今の私たちのリーダーは、どういうビジョンを示しているのでしょうか。
それすら見えている気がしないことが一番の問題なのかもしれません。