滋賀県高島市の住職系行政書士の吉武学です。
遺言・相続・葬儀・埋葬・終活のお悩みに「三つのそうだん」でお応えします。
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全国の家庭裁判所が受理した相続放棄の件数が年々増え続け、2022年は過去最多の26万497件が受理されたと報道されました。
記事では、人口減少や過疎化が進む中、空き家となった実家を手放したり、縁遠い親族の財産を受け取らなかったりする例が目立つと指摘されています。
私も時折、相続放棄についての相談を受けます。
相続放棄は、例えば親子関係のこじれなどから親の財産を相続したくない時や、親が会社経営などの関係からプラスの財産を超えるマイナスの財産(負債)がある場合に、相続財産を引き継がないために行う手続きです。
相続放棄をしたい場合は、民法の規定に基づき、自分が相続人となった事を知ったときから3か月以内に家庭裁判所に相続放棄の申立てを行わなければなりません。
この手続きのことを理解せずに相続放棄の言葉だけが独り歩きしている例がよく見られます。
「父の相続の時に兄が全部相続するために自分は相続放棄した」などおっしゃられる方がよくいますが、家庭裁判所に手続したのか聞くと、何もしておらず、ただ遺産分割協議書に署名捺印しただけだと言われます。
これは言葉はよく似ていますが「相続分の放棄」と呼ばれるもので、プラスの財産の相続の時には特に問題は起きませんが、借金などのマイナスの財産が後から出てきたときに問題となります。
「相続放棄」の場合は、民法の規定により「初めから相続人とならなかったものとみな」されます。
そのため債権者からの請求があっても、相続人ではないので支払う義務から免れます。
一方で「相続分の放棄」の場合は、相続人である地位は残るので、知らんぷりというわけにはいきません。
ただ記事冒頭にもあったとおり最近の相続放棄は、実家などが管理できないため手放そうとする「負動産」に絡むものが多いと推測されています。
相続人がみな相続放棄をして、最終的に相続人がいなくなる相続人不存在になれば、原則的には最後は国庫に帰属します。
しかし、そこまで自動的に進むのではなく、相続財産清算人の専任の申立や予納金などのハードルがあり、時間もかかります。
相続放棄して、法律的に維持管理する保存義務を免れたとしても、実家など自身の出身地などであれば地域の人から管理保全に関する連絡や苦情をもらうこともあるでしょう。
義務はないのだから、と突っぱねることもできますが、故郷に戻りにくくなることと思います。
今後、相続放棄の可能性が高い不動産を持っている現在の世代も、自分たちの世代で何とかしておこう、という気持ちが無い人がいます。
次の世代の人も負担を抱えるのは嫌だ、と相続放棄をして自分にデメリットのある関係を断とうとする人がいます。
空き家の活用などと言われますが、我々自身も手間もお金も出さずに、他の人が上手くやってくれるといいな、と傍観しています。
「今だけ、金だけ、自分だけ」という言葉がありますが、どちらの世代も私たちもそんな刹那主義的な考え方である気がします。
自分たちが過去の先人から受けた恩恵に浴すだけでなく、恩恵の一部を原資にして次世代に希望や幸福の種を蒔いていく。
みんながそう考えるきっかけを何か作らなければいけないと感じました。